冬の間の二か月ほど、船乗りとその家族は、それぞれの船主のところにやってきて、囲炉裏のそばで団らんすることがよくありました。素衞の生まれた時も「惣立ち」がまだなら、そうであったでしょう。素衞はこの人々の笑いさざめく団らんの声を子守歌として聞いて育ちました。素衞は人と語り合うのが大変に好きであったと伝わりますが、素衞の体の中にはこの北国の囲炉裏を囲んで談論風発することを好む祖先の血が流れていたにちがいありません。
自然を相手に豪快な闘いを挑む船乗り達、開拓精神にあふれ力強く外に出てゆく男たち。囲炉裏を囲みながら歌も出てくるだろう。港々を回っているのだから、珍しい話や面白い話は山とあります。話し声は自然と大きく笑い声は高い天井をゆるがすようです。聞いてる者は、まだ見ぬ新しい土地に大きな夢をふくらましたでしょう。ゴウゴウと鳴る海なりの中に、彼らの負けじの大声が響いてきます。